第26回(令和5年度)精神保健福祉士国家試験午後の問題

精神疾患とその治療

問題1  双極性障害の躁病{そうびょう}エピソードに関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1  考えが次々と浮かんでくる。
2  性欲が低下する。
3  治療薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を使用する。
4  「自分は何でもできる」と気が大きくなる。
5  活動性が亢進{こうしん}するので、疲労を感じやすい。
問題2  アルコール依存症の治療に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  向精神薬の使用は禁忌である。
2  本人の抱える問題は家族が代わって対処することが望ましい。
3  断酒会は、匿名で参加する自助グループである。
4  抗酒剤は、服用後に飲酒すると頭痛や嘔吐{おうと}などを起こすことで飲酒を抑止する。
5  合併症のウェルニッケ脳症は断酒をすれば改善する。
問題3  次の記述のうち、パニック症におけるパニック発作の典型的な症状として、正しいものを1つ選びなさい。
1  動悸{どうき}を感じる。
2  空虚感を認める。
3  興奮して走り出す。
4  大勢から注目を浴びることを避ける。
5  周囲からの視線が気になる。
問題4  Aさん(74歳、女性)は、2年前に母親が亡くなった頃からふさぎ込むようになり、物忘れが徐々に目立ってきた。物忘れは、ついさっきのことを忘れることが多く、本人の物忘れへの自覚は乏しかった。数ヵ月前から、「お母さんが来ているでしょう」と夜中に何度も夫を起こすようになった。昼間は比較的しっかりしているが、時折、「誰かが財布を盗んだ」と訴えて、険しい表情になることがある。
次のうち、Aさんに疑われる診断名として、適切なものを1つ選びなさい。
1  全般性不安症
2  認知症
3  うつ病
4  統合失調症
5  妄想症
問題5  Bさん(28歳、女性)は、数年前から、紙幣に誰かの血液が付着しているかもしれないという考えにとらわれて、紙幣に直接触れることができない。やむを得ず触れた後には、長時間手を洗うため、生活に支障が生じており、困って自ら精神科を受診した。 次のうち、Bさんの症状として、正しいものを1つ選びなさい。
1  血統妄想
2  被毒妄想
3  強迫観念
4  妄想知覚
5  観念奔逸
問題6  Cさん(26歳、男性)は、仕事上のささいなミスを上司に注意されてから、職場の雰囲気が変わったように感じ、漠然とした不安を抱くようになった。通勤の時の風景もいつもと違って見え、何か不吉なことが起きるのではないかと怖くなって外に出ることができなくなった。自室にひきこもってさかんに、「怖い」と訴えるため、心配した両親に連れられて精神科を受診した。
次のうち、Cさんの精神症状として、正しいものを1つ選びなさい。
1  関係妄想
2  妄想気分
3  罪業妄想
4  抑うつ気分
5  広場恐怖
問題7  次の記述のうち、注意欠如・多動症(ADHD)の症状として、適切なものを1つ選びなさい。
1  爽快気分が生じ楽観的に物事を考える。
2  身体に対する著しい認知の歪{ゆが}みを認める。
3  非言語的コミュニケーションが苦手である。
4  自分の考えが抜き取られるように感じる。
5  課題や活動を順序立てて行うことが困難である。
問題8  Dさん(38歳、男性)は、不眠を主訴に精神科クリニックを受診した。医師が不眠の理由を尋ねると、「常に誰かに後を付けられている。道を行く全ての人が、自分のことを話している。自分を狙っている組織がある」と訴えた。診察の結果、Dさんは、統合失調症と診断され、薬物療法を含む治療が開始された。その後来院した時、Dさんは精神科クリニックのE精神保健福祉士に、「組織の人がそこに来ている気がする。どう思いますか」と心配そうに確認を求めてきた。
次の記述のうち、E精神保健福祉士から、Dさんに対する声かけとして、適切なものを2つ選びなさい。
1  「あなたの考えは間違っています」と明確に指摘する。
2  「大変ですね。おつらいですね」と共感を示す。
3  「あなたの心配を担当の医師に伝えてみませんか」と促す。
4  「どういう組織か詳しく教えてください」と説明を求める。
5  「組織が攻撃してくることはあり得ません」と述べた上でその理由を論理的に説明する。
問題9  次の記述のうち、精神分析療法として、正しいものを1つ選びなさい。
1  物事の捉え方に焦点を当てて、修正する。
2  「あるがまま」の心的態度を身につける。
3  家族関係に生じている心理的問題に対して、家族を対象とした集団面接を行う。
4  心に浮かんだことを自由に連想して、語ってもらう。
5  芸術活動を通して心身の安定を図る。
問題10  次の記述のうち、入院中の行動制限に関し、「精神保健福祉法」に基づく厚生労働大臣が定める基準として、正しいものを2つ選びなさい。
1  病状に応じて、できる限り早期に患者に面会の機会を与える。
2  通信は基本的に自由であることを、患者や家族等に文書や口頭で伝える。
3  任意入院では、閉鎖病棟で処遇することは禁止されている。
4  12時間を超えない隔離は、看護師の判断で実施できる。
5  身体的拘束を実施中、医師の診察は毎日1回とされている。

精神保健の課題と支援

問題11  次のうち、国際生活機能分類(ICF)でいう心身機能の改善に焦点を当てたものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  統合失調症患者の家族への心理教育
2  うつ病患者への薬物療法
3  高次脳機能障害の人にも使い方が分かりやすい道具の開発研究
4  認知症の人が生活しやすいグループホームの在り方の研究
5  偏見をもたずに精神障害者を雇用する職場を増やす啓発活動
問題12  次のうち、不適切な養育を意味する用語として、正しいものを1つ選びなさい。
1  アタッチメント
2  トラウマインフォームドケア
3  マルトリートメント
4  インプリンティング
5  アロマザリング
問題13  いじめ防止対策推進法に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1  児童生徒から教員に対して向けられる暴力の防止についての規定がある。
2  ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に書き込まれた誹謗中傷{ひぼうちゅうしょう}は、いじめの定義から除外されている。
3  校長に対する罰則の規定がある。
4  いじめの早期発見、いじめの再発を防止するための取組等について、学校の評価を適正に行うことが規定されている。
5  学校外で生じた児童生徒同士のトラブルは、いじめに該当することがある。
問題14  勤労者の過労自殺に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  過労死等防止対策推進法では、政府に対し、過労死等の防止のための対策に関する大綱を定めることとしている。
2  2018年(平成30年)の労働基準法の改正において、時間外労働の上限が月90時間・年720時間に規制された。
3  従業員支援プログラム(EAP)は、職場の管理監督者が行う過労自殺防止を含めた健康相談プログラムである。
4  自殺未遂者に対する産業保健スタッフの支援は、自殺対策のポストベンションに該当する。
5  労働安全衛生法では、業務による心理的負荷による精神障害を原因とする自殺を過労死等の一つとして規定している。
問題15  災害時の精神保健に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  デブリーフィングは、災害時に備えた福祉施設での避難訓練である。
2  急性ストレス障害(ASD)は、災害発生後1か月以上が経過してから初めて被災者に現れる精神症状である。
3  DPATは、厚生労働省に設置する災害時の情報センターである。
4  サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)は、重大な危機的出来事にあったばかりで苦しんでいる人びとへの人道的、支持的、かつ実際的な支援である。
5  トリアージは、災害時の精神科医による精神療法である。
問題16  N市では、保健指導としてアルコール関連問題のスクリーニング調査と簡易的な面接指導を行う計画を立てている。
次のうち、上記計画で使用するスクリーニングテストとして、適切なものを1つ選びなさい。
1  AUDIT
2  GHQ
3  SDS
4  CES-D
5  BDI
問題17  次のうち、薬物を社会規範から逸脱した目的や方法で自己摂取することを指す概念として、正しいものを1つ選びなさい。
1  依存
2  離脱
3  中毒
4  乱用
5  耐性
問題18  犯罪被害者等基本法に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  国及び地方公共団体は、保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう必要な施策を講ずるものとされている。
2  都道府県警察本部には、犯罪被害者等施策推進会議を設置することが定められている。
3  犯罪被害者の心理的外傷等に関する調査研究は、裁判所の責務とされている。
4  地方公共団体には、犯罪被害者等基本計画の策定が義務づけられている。
5  法務省内に犯罪被害者支援ネットワークを設置することが定められている。
問題19  次のうち、世界精神保健連盟(WFMH)が提唱し、国際連合が制定した国際デーとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  世界メンタルヘルスデー
2  世界自閉症啓発デー
3  国際障害者デー
4  世界患者安全デー
5  世界自殺予防デー
問題20  P県に採用されたF精神保健福祉士は、児童・思春期の精神保健相談、各種依存症に関する相談や支援、市町村の障害者保健福祉施策に対する技術的援助、精神障害者保健福祉手帳の申請に対する判定業務等を行う機関に配属された。
次のうち、F精神保健福祉士が配属された機関として、正しいものを1つ選びなさい。
1  児童相談所
2  障害者更生相談所
3  精神保健福祉センター
4  保健所
5  県立精神科病院

精神保健福祉相談援助の基盤

問題21  次の記述のうち、社会福祉士及び介護福祉士法における社会福祉士の業について、正しいものを1つ選びなさい。
1  身体上又は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき心身の状況に応じた介護を行う。
2  福祉に関する事務所において、援護又は育成の措置に関する事務を行う。
3  心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う。
4  専門的知識及び技術をもって、福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービス関係者等との連絡及び調整その他の援助を行う。
5  社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行う。
問題22  次の記述のうち、ソロモン(Solomon, B.)が提唱したソーシャルワーク理論の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  システム理論に生態学的な視点を導入し、有機体と環境との相互作用に焦点を合わせた生活モデルを確立した。
2  クライエントが社会から疎外され、抑圧され、力を奪われていく構造に目を向け、無力な状態からの脱却を目指した。
3  心理的な側面と社会的な側面の双方を視野に入れて、クライエントを状況の中にある人間として捉えた。
4  実践の構成要素を示しつつ、問題解決過程が人間のもつコンピテンスの拡大に関わると主張した。
5  直接的因果論や客観的事実を否定し、過去を重視せず、現在・未来志向の短期的アプローチを主張した。
問題23  次のうち、ソーシャルロール・バロリゼーションを提唱した人物として、正しいものを1つ選びなさい。
1  ニィリエ(Nirje, B.)
2  ビアーズ(Beers, C.)
3  ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger, W.)
4  ラップ(Rapp, C.)
5  バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen, N.)
問題24  6月のある日、大学のキャンパスソーシャルワーカーであるG精神保健福祉士のところに、留学生のHさん(1年生)が留学生支援センターの職員に付き添われやって来て、面接することとなった。生気のない様子のHさんはぽろぽろ涙をこぼしながら、「日本の大学に憧れて留学したが、同級生との会話は早すぎてついて行くことができない。授業の内容があまり理解できずに困っている。アパートの隣人からはゴミの分別について強い口調で注意され悲しい気持ちになった。母国にいる家族の期待を考えると苦しくて、もうどうしたらよいか分からない」と訴えた。
次の記述のうち、この面接場面においてG精神保健福祉士が優先すべき対応として、適切なものを1つ選びなさい。
1  同級生への話しかけ方の練習を提案する。
2  授業について行けるかが心配なので一緒に考えましょうと伝える。
3  留学生に慣れた家主や近隣の人々がいる物件を探して転居することを勧める。
4  うつ気味であることを心配し、精神科クリニックへの受診を促す。
5  ゆっくり話を聞きつつ、Hさんとともに状況の整理を行う。
問題25  次のうち、ソーシャルグループワークについて、コノプカ(Konopka, G.)が提唱したものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  社会的諸目標モデル
2  社会的学習理論
3  相互作用モデル
4  課題グループ
5  実践における14の原則
問題26  次の記述のうち、精神保健福祉相談員に関する説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  精神障害者及びその家族等その他の関係者に対する訪問指導業務を行う。
2  厚生労働大臣が任命する。
3  精神保健福祉センターや保健所その他これらに準ずる施設に必置される。
4  精神保健福祉士が担う場合には、3年以上の実務経験が必要となる。
5  「障害者総合支援法」に規定されている。
問題27  次の記述のうち、精神保健福祉士が行う権利擁護の調整機能に当たるものとして、適切なものを1つ選びなさい。
1  生活に困窮して相談支援事業所を訪れた人に、生活困窮者自立支援事業の情報を提供する。
2  投票に行けない人々が見過ごされていることに対して問題を提起し、選挙権を行使できるよう活動する。
3  市が主催するイベントや地域のお祭りの機会を通じて、広く市民に対して障害への理解促進を働きかける。
4  勤務日の変更を提示され通院できなくなるため退職を考えているクライエントに、合理的配慮があることを説明する。
5  購入したばかりの高額商品のトラブルで困っている通院患者から依頼を受けて、消費生活センターにつなぐ。
問題28  Jさん(16歳、女性)は、母親(42歳)と祖母(75歳)の三人暮らしであった。ある日、祖母が認知症のためU精神科病院に入院することになった。U精神科病院のK精神保健福祉士は入院に当たって、母親とJさんと面談をした。母親は離婚後、パート勤務しているが、経済状況は厳しく、二つの仕事を掛け持ちしていた。そのため、母親の帰りは遅く、Jさんが祖母の介護を担っていた。祖母から目を離せない時には、Jさんは高校を休んでおり、周りには相談できる人もいない様子であった。K精神保健福祉士は、Jさんにも専門的な支援が必要であると考え、Jさんの同意を得て関連する機関に連絡をした。
次のうち、K精神保健福祉士が行った活動として、適切なものを1つ選びなさい。
1  コーディネート
2  コーピング
3  モデリング
4  ブローカリング
5  シェイピング
問題29  次の記述のうち、チームアプローチにおけるトランスディシプリナリ・モデルの説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  職種の専門分野を超えて役割を解放し、横断的に共有を図り課題を達成する。
2  チームにおいて専門職として各々の役割を果たすため、独立して業務を行う。
3  職種間の役割を一部流動させ、チームとして複合的な課題に取り組む。
4  協働・連携の下で各々の役割を果たすため、専門職間の相互作用が高まる。
5  チーム内の専門職間に階層性が存在し、医療現場では医師が中心となる。

(精神保健福祉相談援助の基盤・事例問題1)

次の事例を読んで、問題30から問題32までについて答えなさい。
〔事  例〕
L精神保健福祉士は、精神障害者を主な利用者とする就労継続支援B型事業所で働いている。作業が終わると利用者数人が集まり、人付き合いや生活上の困りごと、夢や願いなど様々なことを互いに話し合っていた。その話し合いの場は徐々に広がりを見せ、他の事業所の利用者も加わるようになっていった。L精神保健福祉士は、その活動の代表となったMさんから話し合いの場所について相談を受け、公民館を紹介した。しばらくの間、L精神保健福祉士が会場予約を代わりにしていたが、Mさんたちは集まる時間や回数、ルールなどを決め、会場予約を含めて自分たちで運営するようになっていった。そして自分たちの活動に「α」と名前を付けた。(問題30)
ある日、L精神保健福祉士は、市の社会福祉協議会のA社会福祉士から「精神障害への理解と関わり」をテーマに市民を対象とした研修会の講師を依頼された。研修会でL精神保健福祉士は、精神疾患の発症頻度や症状、リカバリーの考え方などについて講義した。受講者からは、「精神疾患について初めて学ぶ機会を得た」「町内に障害者の事業所があるが、ほとんど交流がない」などの感想が述べられた。そこでL精神保健福祉士とA社会福祉士は、精神障害についての理解が地域ではなかなか得られにくく、見えない壁があると考え、次は当事者にも講師を担当してもらい研修会を企画しようと話し合った。
L精神保健福祉士が「α」のメンバーに相談したところ、自分たちの経験を発信する機会にしたいと賛同が得られた。「α」のメンバーとL精神保健福祉士は、地域への発信の内容や方法をそれぞれの立場から学び合い、皆で考え準備を進めた。(問題31)
半年後に「α」のメンバーが講師に加わった新たな研修会を開いた。研修会後、受講者から、「同じ地域社会の中で共に生活している人だと感じた」「一緒に町内のイベントなど何かをやれそうに思う、やってみたい」などの感想が寄せられた。(問題32)

問題30  次のうち、この活動を表すものとして、適切なものを1つ選びなさい。
1  当事者研究
2  リカバリーカレッジ
3  セルフヘルプグループ
4  元気回復行動プラン
5  ソーシャルファーム
問題31  次のうち、ここでのL精神保健福祉士の関わりを表すものとして、適切なものを1つ選びなさい。
1  ナチュラルサポート
2  パートナーシップ
3  ボランティア
4  コンシューマー・イニシアティブ
5  チャリティ
問題32  次のうち、L精神保健福祉士の一連の関わりの背景にある理念として、適切なものを2つ選びなさい。
1  ソーシャルインクルージョンの実現
2  メインストリーミングの保障
3  インテグレーションの確立
4  バリアフリーの推進
5  アクセシビリティの向上

(精神保健福祉相談援助の基盤・事例問題2)

次の事例を読んで、問題33から問題35までについて答えなさい。
〔事  例〕
精神科クリニックで働くB精神保健福祉士(以下「Bワーカー」という。)は、中学の養護教諭からの紹介で、嫌なことがあるとリストカットするというCさん(15歳、女性)のインテーク面接を行った。当日母親が付き添っていたが、はじめにCさんから話を聞いた。Bワーカーがバイオサイコソーシャルモデルにのっとって話を聞く中で、Cさんはクラスの誰とも付き合いがなく、休み時間も机に伏していることや、摂食障害の傾向もあることが分かってきた。親については、「父親はいつも酔っている。母親は怒ってばかりなので何も話していない。今日も理由が何か分からずに来ている」と言う。BワーカーはCさんが話してくれたことをねぎらい、医師の診察につなげた。(問題33)
診察後、医師とBワーカーは、Cさんにことわって、母親に状況を話した。母親は驚き、「夫のことで頭が一杯で気が付かなかった。夫は毎晩深酒しては、Cの成績や反抗的態度について私を責めるんです。だからついCには厳しくしてしまって。Cが身体を傷つけたり、無理に食べて吐いたりするのをすぐにやめさせます」と言う。Bワーカーは、「急いでCさんの行動をやめさせようとせず、まずCさんの思いを聞きましょう」と伝えた。
Cさんの通院が始まり、Bワーカーは、母親に対してCさんへの対応を話し合うだけでよいのか気になったため、職能団体が実施するスーパービジョンを受けた。スーパーバイザーからは家族をシステムとして理解すること、母親もクライエントであるという視点をもつこと等の助言を得た。Bワーカーは母親のニーズと共に、親子3人の関係性からCさんの問題を考え始めた。(問題34)
BワーカーはCさんの話を聞くように努め始めた母親を称賛しつつ、母親のニーズを明確にしていった。そして母親に更なる気づきを促すために、「他の家族からも学びましょう」と保健所主催のアルコール問題を理解するための家族教室への参加を勧めた。(問題35)

問題33  次のうち、バイオサイコソーシャルモデルの視点でBワーカーが着目したこととして、適切なものを1つ選びなさい。
1  問題を親には言わずに抱えてきたCさんの強さ
2  自傷行為や摂食障害に見られるCさんの病理
3  学校でも家でも孤立し無力化しているCさんの状態
4  母親が怒ってばかりの家庭に育ってきたというCさんの物語
5  Cさんの心身の状態と学校や家庭での状態との相互関連性
問題34  次のうち、Bワーカーが受けたスーパービジョンの効果として、適切なものを1つ選びなさい。
1  業務の枠組みの明確化
2  アセスメント能力の向上
3  個人的な課題についての自己洞察
4  バーンアウトの防止
5  業務の遂行状況の明確化
問題35  次の記述のうち、母親に保健所主催の家族教室を紹介した目的として、適切なものを1つ選びなさい。
1  父親の飲酒による攻撃的な行動から母親とCさんが避難するため。
2  父親の飲酒問題への母親の誤った対応を直ちにやめてもらうため。
3  父親が酒を飲む理由を排除するため。
4  父親を同伴し飲酒問題を解決してもらうため。
5  父親の飲酒問題が母親とCさんにどう影響するかを理解してもらうため。

精神保健福祉の理論と相談援助の展開

問題36  次の記述のうち、諸外国における精神保健医療福祉の歴史に関する内容として、正しいものを1つ選びなさい。
1  ニュージーランドでは、自発的入院を認めた「法律第431号」が成立した。
2  アメリカでは、精神保健サービスの基準を示す「ルッキング・フォワード」が公表された。
3  イタリアでは、公立精神科病院を解体する「精神疾患および知的障害者に関する大統領教書」が公表された。
4  フランスでは、精神保健政策を示した「ついに闇からの脱出」が公表された。
5  イギリスでは、ケアマネジメントを導入する「国民保健サービス及びコミュニティケア法」が成立した。
問題37  次のうち、2022年(令和4年)の精神保健福祉士法改正により、新たに規定された精神保健福祉士の業として、正しいものを1つ選びなさい。
1  社会復帰に関する相談
2  地域相談支援の利用に関する相談
3  精神保健に関する課題を抱える者の精神保健に関する相談
4  医師その他の保健医療サービスを提供する者との連絡及び調整
5  応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るための作業活動
問題38  次の記述のうち、レジリエンス(resilience)の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  自己決定能力を高め、自己を主張し、生きていく力を発揮すること。
2  社会に完全かつ効果的に参加し、受け入れられていること。
3  病気自体は治っていなくても、人生における新しい意味と目的を発展させること。
4  困難な状況に耐え、やがて立ち直る力を本来的に有していること。
5  全ての人を社会の構成員として包み込むこと。
問題39  次のうち、国連総会で採択された「精神疾患を有する者の保護及びメンタルヘルスケアの改善のための諸原則」(1991年)の内容として、正しいものを2つ選びなさい。
1  入院原則として、精神保健施設へのアクセスは他の疾患とは異なる方法で行われる。
2  患者の精神状態により、インフォームド・コンセントの権利を放棄するように求めたり、また放棄を勧めたりすることができる。
3  精神疾患を有するとの判定は、各国が独自に認めた医学的基準に即して行われるものとする。
4  不妊手術は、精神疾患の治療として、決してこれを行わないものとする。
5  すべての人は、可能な最善のメンタルヘルスケアを受ける権利を有する。
問題40  次の記述のうち、IMR(疾病管理とリカバリー)のプログラムの説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  物質依存症の人々のために開発された。
2  ストレス-脆弱性{ぜいじゃくせい}モデルを病気の自己管理の基礎としている。
3  家族と支援者は関与しないことが推奨されている。
4  個々のニーズに応じてオーダーメイドされた内容で構成される。
5  精神疾患の一次予防を目的としている。
問題41  Dさん(30歳)は半年前に精神科病院を退院し、週3日アルバイトを行い、1日は精神科デイ・ケアを利用している。病状は落ち着いており、デイケアには時間に遅れずにやって来て、メンバーとレクリエーションを楽しんでいた。ところが、Dさんがデイケアを休むことが続いたので、心配した担当の精神保健福祉士が電話をした。Dさんは、「メンバーからカラオケ店に頻繁に誘われるようになった。疲れるので行きたくないが、相手の気分を害するのではないかと思うと断れない」と話した。話を聞いた精神保健福祉士は、Dさんにデイケアの新たなプログラムへの参加を提案した。
次のうち、精神保健福祉士がDさんに提案したプログラムの目的として、適切なものを1つ選びなさい。
1  正規雇用の仕事に就く準備
2  服薬の自己管理
3  生活リズムの改善
4  ソーシャルスキルの獲得
5  疾病や障害の正しい知識の学習
問題42  次の記述のうち、精神科医療機関における退院に向けたチームアプローチの説明として、適切なものを2つ選びなさい。
1  構成員同士の良好な関係性を保つため、率直な意見表明は控える。
2  利用者の意向を尊重するため、利用者参加を原則とする。
3  多様なニーズに対応するため、構成員の役割分担を明確化する。
4  構成員の対等性を重視するため、チームリーダーは見守りに徹する。
5  秘密保持を厳守するため、日常的なコミュニケーションは控える。
問題43  次の記述のうち、社会リハビリテーションにおけるアセスメントとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  地域移行に向けた外泊訓練の効果について検証する。
2  利用可能な福祉サービス事業所の状況を把握する。
3  一人暮らしに向けた支援体制をつくる。
4  新たなニーズが生じた際に支援できるよう地域のネットワークを確認する。
5  精神障害者保健福祉手帳取得で活用できるサービスの拡充を検討する。
問題44  次の記述のうち、生活場面面接の特徴として、適切なものを2つ選びなさい。
1  プライバシーに配慮して、匿名性を保ちながら行う。
2  クライエントの認知を改善し、行動を変容させる。
3  クライエントが、比較的リラックスした状態で話せる。
4  自宅や入所施設の自室、入院中の病室などで行う。
5  クライエントの生活困難課題を取り上げて、実際に再現してみる。
問題45  次のうち、統合失調症の再発率を高めるとされる家族の状況として、適切なものを1つ選びなさい。
1  共依存
2  イネイブリング
3  高い感情表出
4  投影性同一視
5  逆転移
問題46  統合失調症の娘をもつEさん(70歳、女性)は10年前より家族相談員として活動している。ある日の相談会に、Fさん(45歳、女性)が初めて相談に訪れ、「息子が病気になったのは親のせいなのでしょうか」と沈鬱な表情で話した。Eさんは、「私も娘が病気になった頃は自分を責めてばかりでした」と話すと、Fさんは、「Eさんもそうだったのですか」と言い、涙を流した。その後Fさんは度々相談会に訪れ、半年経った頃には、「自分を責めてもしょうがないですね。自分の人生を楽しんでもいいですよね」と笑顔で話すようになった。EさんはFさんの変化に励まされ、相談員の活動にやりがいを感じた。
次のうち、家族相談員の活動を通して、Eさんにもたらされたことを示す概念として、適切なものを1つ選びなさい。
1  ピア・アドボケイト
2  カタルシス
3  ヘルパー・セラピー原理
4  バウンダリー
5  リフレーミング
問題47  精神科病院に入職して4か月たつG精神保健福祉士(22歳)は、入職8年目のH精神保健福祉士から、定期的にスーパービジョンを受けている。
今日は、H精神保健福祉士が、G精神保健福祉士と入院患者との面接に同席した。面接が終わると、2人は相談室に戻り、振り返りを行った。H精神保健福祉士は、「よいタイミングで相づちを入れて話を引き出していましたね」と話した。G精神保健福祉士は、「次の話題へどのように進めればいいのか迷いました。あれでよかったのでしょうか」とH精神保健福祉士に話した。そこで、H精神保健福祉士は気づきを促した。
次のうち、この場面で行われたスーパービジョンの形態に関する説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  ピア・スーパービジョン
2  ライブ・スーパービジョン
3  セルフ・スーパービジョン
4  ユニット・スーパービジョン
5  グループ・スーパービジョン
問題48  Jさん(55歳)は、精神科病院を退院後、地域活動支援センターを利用しながら在宅生活を継続している。最近、健康診断を受けた結果、専門病院の受診を勧められ、初期の大腸がんが見つかった。地域活動支援センターのK精神保健福祉士は、Jさんの同意を得た後、がん治療を担当する主治医から、「治療をしていく中で、腹痛や嘔吐、血便、便秘などが出現することが予想されるため、支援を行う際は体調に気を付けて欲しい」との情報を得た。そこで、個別支援に反映させていくこととした。 次のうち、K精神保健福祉士と主治医との間で行われたこととして、適切なものを1つ選びなさい。
1  アサーション
2  フィードバック
3  スクリーニング
4  カンファレンス
5  コンサルテーション

(精神保健福祉の理論と相談援助の展開・事例問題1)

次の事例を読んで、問題49から問題51までについて答えなさい。
〔事  例〕
Lさん(41歳、男性)は、20代で統合失調症と診断され、服薬を中断して体調を崩しては入退院を繰り返し、今回の入院となった。なかなか病状が安定しなかったが、入院して1年が過ぎ安定してきた。病棟担当の精神保健福祉士は、Lさんから、「両親とも70代で体調が悪いので、もう負担はかけられない。一人暮らしをして自立したいが、これまで家事は母親に任せきりだったため、いざ一人暮らしを考えると不安がある」と聞いた。そこで、地域移行支援を紹介し、利用することになった。後日、相談支援事業所のM精神保健福祉士とピアサポーターのAさんがLさんの元を訪れた。Aさんは、「僕も退院が不安だったけど、いろいろな助けを借りて一人暮らしができているし、好きなことに打ち込めて楽しいよ」と話し、自身の生活や利用しているサービスについて説明した。(問題49)
Lさんは、「両親が貯めてくれたお金があるので、しばらくは生活の心配はないと思う」「Aさんのように一人暮らしを継続し、再入院しないで、好きな鉄道を自由に見に行きたい」「自炊したいし、家事や生活費のやりくりも頑張りたいが、自信がない」「ささいなことが心配になるので、相談できる場所があると助かる」と話した。M精神保健福祉士は、Lさんの思いを受け止め、地域移行支援計画案を作成した。(問題50)
Lさんは、AさんやM精神保健福祉士の支援を受けて退院し、引き続き地域定着支援を受けながら一人暮らしを始めた。そして、地域活動支援センターのB精神保健福祉士の支援を受けながら、フリースペースの利用や毎日の夕食会に参加し始めた。さらに、居宅介護による掃除の支援や訪問看護を利用して生活に慣れていった。しかし、ほどなくしてフリースペースや夕食会に顔を見せなくなった。B精神保健福祉士は、M精神保健福祉士と訪問看護師にこのことを話し、訪問看護時に一緒にLさん宅を訪れた。Lさんは、「夕食会で話の合う人がいないので居づらく、行けなくなってしまった。そのことに悩んだり、夕食作りなど家事を頑張ったので疲れてしまった。今は寝てばかりいて、家にひきこもっている。このままだとまた入院になってしまうのでしょうか」と話した。そこでケア会議が開催された。(問題51)

問題49  次のうち、この時のLさんに対するAさんの役割を表すものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  セカンドオピニオン
2  アドボケーター
3  メディエーター
4  エデュケーター
5  ロールモデル
問題50  次の記述のうち、この計画案の内容として、適切なものを1つ選びなさい。
1  服薬の自己管理をするために、心理教育プログラムに参加する。
2  生活費を自己管理するために、生活困窮者家計改善支援事業を利用する。
3  料理や掃除、洗濯が一人でできるようになるために、退院まで1年かけて練習する。
4  心配を軽減するために、アサーション・トレーニングを行う。
5  一人暮らしをするために、Aさんにアパート探しを依頼する。
問題51  次の記述のうち、この時のケア会議の参加者がLさんに話したこととして、適切なものを2つ選びなさい。
1  訪問看護師:「生活リズムを立て直すために、入院を考えてみませんか」
2  B精神保健福祉士:「鉄道好きなメンバーがいるので、声を掛けてみましょうか」
3  M精神保健福祉士:「無理せず、ご実家で暮らすようにしますか」
4  ホームヘルパー:「家事ができるようになったので、もう少し頑張ると楽になりますよ」
5  Aさん:「一緒に夕食のお惣菜{そうざい}を買いに行きませんか」

(精神保健福祉の理論と相談援助の展開・事例問題2)

次の事例を読んで、問題52から問題54までについて答えなさい。
〔事  例〕
Cさん(45歳、女性)は、20歳の時に母親を亡くし、その後は父親と二人で暮らしてきた。35歳で統合失調症を発症し、入退院を繰り返したが、最近はデイケアに通いながら父親と家事を分担し、安定した生活を送っていた。ところが、父親が脳梗塞で倒れ、しばらく入院することになった。Cさんはショックで体調を崩し、デイケアを休む日が続いた。心配したデイケアのD精神保健福祉士が自宅を訪問すると、部屋に衣類が散乱していた。D精神保健福祉士が声を掛けると、Cさんは心細さから、「私はどうしたらいいのか分からない」と泣き始めた。D精神保健福祉士は、Cさんに同伴して父親の見舞いに行き、病院で説明された病状を解説したり、自宅に訪問してCさんの不安解消に努めた。また、Cさんが、「一人でいるのが怖い」と訴えたので、以前も利用したことのあるショートステイを勧めた。(問題52)
ショートステイ後、Cさんは落ち着きを取り戻し自宅に戻った。しばらくして父親も退院することとなったが、父親には片麻痺{かたまひ}が残り、今までのように家事を行うことは難しかった。ケアマネジャーはCさんのことも考え、父親に対してしばらく施設に入所してはどうかと勧めた。それを聞いたCさんは、「でもお父さんと一緒に暮らしたい」と困惑した表情で言った。D精神保健福祉士は、Cさんが介護に疲れて生活が成り立たなくなるのではないかと考えたケアマネジャーの意見に賛同したい一方で、Cさんの気持ちを考えて葛藤を抱えた。(問題53)
その後、父親は自宅に戻った。Cさんは父親への訪問介護を活用しながら、食事作りと父親の介護を続けた。ある日、D精神保健福祉士がCさん宅を訪ねて様子を聞くと、数日前から一日一食しか摂っていないとのことであった。理由を聞くと、父親に健康飲料を飲ませたら元気になったように見えたので、追加で購入したら予想外に出費がかさんだと話した。Cさんは、「お父さんに元気になってもらいたいので、これからも健康飲料を買うつもり」と言った。そこで、D精神保健福祉士は、現段階での対応としてある提案をした。(問題54)

問題52  次のうち、この時のCさんに対するD精神保健福祉士が用いたアプローチとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  家族システムアプローチ
2  課題中心アプローチ
3  ナラティブアプローチ
4  危機介入アプローチ
5  心理社会的アプローチ
問題53  次の記述のうち、D精神保健福祉士が抱えた自分の葛藤への対処として、適切なものを2つ選びなさい。
1  Cさんの意思を確認し、その判断に委ねる。
2  Cさんの主治医に連絡を取り、指示を求める。
3  父親の自宅介護に必要なサービスについて、ケアマネジャーと相談する。
4  父親の介護が心身にどの程度の負担となるかをCさんと話し合う。
5  精神保健福祉士法に目を通し、精神保健福祉士として適切な行動を確認する。
問題54  次のうち、この時のD精神保健福祉士が行ったCさんへの提案として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1  成年後見制度の利用
2  健康飲料の購入中止
3  訪問介護員に対する二人分の食事提供依頼
4  地域定着支援事業の利用
5  健康飲料を購入する上限額の設定

(精神保健福祉の理論と相談援助の展開・事例問題3)

次の事例を読んで、問題55から問題57までについて答えなさい。
〔事  例〕
Eさん(19歳、男性)は、高校2年時に自閉スペクトラム症と診断された。3年時に就職活動を行ったが、面接で質問に適切に答えられないことや、ゲームに熱中して寝坊し面接に間に合わないことが何度もあり、不採用が続いた。度重なる不採用の連絡と就職活動の指導によるストレスでうつ状態となり、就職活動を中止したまま卒業した。
1年後、Eさんは主治医から就職活動再開を提案され、通院先のF精神保健福祉士と面談した。F精神保健福祉士は、Eさんには一度見たものを正確に覚える、集中力があるという強みがある一方、高校時代からの課題に加え、自分から相談することは苦手なことが分かった。Eさんは配慮してくれる会社で働くことを希望したため、F精神保健福祉士は精神障害者保健福祉手帳の取得を支援した。そして、V就労移行支援事業所をEさんに紹介し、利用できるよう支援した。(問題55)
V就労移行支援事業所のG精神保健福祉士は、Eさんの訓練の様子を見て、地域のイベントで顔見知りになったW社の社長が頭に浮かんだ。そこで、W社に雇用の可能性について問い合わせたところ、「Eさんに合った仕事があるか分からない」とのことであった。(問題56)
その後、EさんはW社において事務の仕事で職場実習を開始した。実習5日目に、W社の担当者からG精神保健福祉士に、「話があるので来て欲しい」と電話があった。G精神保健福祉士が訪問したところ、担当者は、「Eさんに何度も手順の間違いを指摘したが、同じ失敗を繰り返す」「何かあれば相談するよう伝えていたのに、今日は無断で遅刻した」「このままだと実習継続は厳しい」と話した。一方、Eさんは、「社員から何を注意されたか分からず、とても疲れた。今朝起きたら始業時間を過ぎていたので急いで来たが、実習を始めさせてもらえない」と話した。G精神保健福祉士は、担当者にEさんの対応について助言した。(問題57)
G精神保健福祉士のサポートによりEさんの職場実習は順調に進み、W社はEさんの雇用について前向きに検討し始めた。

問題55  次のうち、この時のF精神保健福祉士の対応として、正しいものを1つ選びなさい。
1  ネゴシエーション
2  インフォームドチョイス
3  オリエンテーション
4  アカウンタビリティ
5  リファーラル
問題56  次の記述のうち、この時点でG精神保健福祉士がW社に対して行うこととして、最も適切なものを1つ選びなさい。
1  自分がW社の仕事を見学し、体験できるよう依頼する。
2  就労移行支援の制度について説明する。
3  Eさんの特性を詳細に伝え、できそうな仕事を探すよう依頼する。
4  Eさんを雇用すると助成金の受給が可能となることを説明する。
5  Eさんと面接し、雇用の可能性を判断してもらうよう提案する。
問題57  次の記述のうち、G精神保健福祉士が行った助言として、適切なものを2つ選びなさい。
1  「遅刻した時は、理由を聞かずそっとしておきましょう」
2  「作業手順書を作成し、Eさんに渡してはどうでしょうか」
3  「発注データの確認作業を担当させることを検討しませんか」
4  「同じ部署の社員と仲良くなる機会を設けましょう」
5  「仕事に慣れるために、実習時間を増やしてみませんか」

(精神保健福祉の理論と相談援助の展開・事例問題4)

次の事例を読んで、問題58から問題60までについて答えなさい。
〔事  例〕
Q市障害福祉課に勤務するH精神保健福祉士に、地域包括支援センターの主任ケアマネジャーから電話があり、「ホームヘルパーから、『訪問に行くと、同居する子が部屋から出て来ないし外出もしないと言われ、その対応の仕方が分からない』と相談されて困っている」とのことだった。H精神保健福祉士は、その話を聞きながら、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、Q市には同様のひきこもり課題を抱える事例が他にもあるのではないかと思った。(問題58)
Q市におけるひきこもりの事例では、「退職」や「新型コロナウイルス感染症」をきっかけとするものが目立ち、ひきこもり期間は「2年から3年未満」が多かった。H精神保健福祉士はのちに開催された「協議会」において現状を報告し、ひきこもり問題に対応するため、専門部会の立ち上げを提案して、承諾された。その後、保健所、基幹相談支援センター、ひきこもり地域支援センター、ひきこもり支援をしているNPO法人、Q市社会福祉協議会、地域包括支援センターが集まり、第一回の専門部会を開催することとなった。専門部会ではH精神保健福祉士がQ市の現状報告後、ファシリテーターとなり、参加者に支援の悩みやひきこもっている人のメンタルヘルスに関連する課題等について自由に意見を出し合ってもらった。意見としては、「女性のひきこもっている人の増加が目立ち始め、このままだと長期化し、メンタルヘルス問題の悪化が懸念される」こと、「それまであった人間関係も疎遠になって家族以外と会話していない」こと、「親を介護しながら扶養されている」こと、「自分の先行きが不安になって不眠に陥っている」こと等が挙がった。(問題59)
数回にわたる専門部会のまとめとして、「女性の増加が目立ち、彼女たちは、もう一度誰かとつながりたいという気持ちがあるがなかなか自分からは行動しにくいようだ」ということで意見が一致した。そして、専門部会は新たな取組の提案と報告を行い、それを受けたQ市は提案に基づく取組を行うこととした。(問題60)
(注)  「協議会」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に基づき行われる協議会のことである。

問題58  次のうち、この後にH精神保健福祉士が行うこととして、適切なものを1つ選びなさい。
1  ソーシャルネットワーク
2  ソーシャルワークリサーチ
3  ソーシャルサポート
4  ソーシャルキャピタル
5  ソーシャルグループワーク
問題59  次のうち、この時点でH精神保健福祉士がファシリテーターとなり、参加者と共に行ったこととして、正しいものを1つ選びなさい。
1  傾聴
2  参与観察
3  KJ法
4  ブレインストーミング
5  ディベート
問題60  次の記述のうち、Q市の新たな取組として、適切なものを1つ選びなさい。
1  居場所やつながりを作るために、同じ悩みを語り合うサロンづくりを進める。
2  一人暮らしの支援として、住宅入居等支援事業を開始する。
3  日常生活自立支援事業の広報を積極的に行う。
4  市内の精神科医療機関の一覧をひきこもっている人たちに送付する。
5  家族内での役割を獲得するための介護教室を開催する。

精神保健福祉に関する制度とサービス

問題61  次の記述のうち、「精神保健福祉法」に規定される精神科病院の管理者の役割として、正しいものを2つ選びなさい。
1  入院者からの退院請求に対し、その者の入院継続の要否を審査する。
2  措置入院者に自傷他害の恐れが消失した場合、直ちに、その者を退院させる。
3  医療保護入院を行う場合、その旨を本人に書面で知らせる。
4  入院者に対して、行政機関の職員との面会を制限する。
5  都道府県知事に対して、医療保護入院者の入院届を出す。
問題62  ひきこもり地域支援センターに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  ひきこもりに関する家族からの相談は対象外である。
2  ひきこもり支援コーディネーターを置く。
3  「精神保健福祉法」に基づき設置されている。
4  ひきこもりの支援対象の年齢は15歳から49歳までである。
5  連絡協議会の設置が義務づけられている。
問題63  医療保険制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  75歳以上の高齢者等は、他の医療保険から独立した公的医療保険に加入する。
2  国民健康保険の保険者は、国である。
3  医療保険は、現金給付ではなく現物給付である。
4  居宅サービス計画に基づく訪問看護の費用は、医療保険から支払われる。
5  高額療養費の自己負担額は、一律に設定されている。
問題64  次のうち、市町村長が指定するものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  応急入院させることができる医療機関
2  地域相談支援を行う事業者
3  発達障害者支援センター
4  精神保健指定医
5  計画相談支援を行う事業者
問題65  次のうち、自殺総合対策大綱に示された取組により養成される、見守り等の役割を担う人材として、正しいものを1つ選びなさい。
1  ゲートキーパー
2  コミュニティソーシャルワーカー
3  ペアレントメンター
4  ピアスタッフ
5  カウンセラー
問題66  地域生活定着支援センターに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  利用には、精神障害者保健福祉手帳の所持が要件となる。
2  職員の配置においては、精神保健福祉士が必置となっている。
3  支援は、矯正施設出所後に開始される。
4  設置は、各市町村に1か所となっている。
5  整備は、厚生労働省が所管する事業により進められている。
問題67  保護観察所に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1  未成年者の保護観察は対象外である。
2  犯罪予防のための普及啓発を行う。
3  精神保健観察を行う。
4  刑事施設の仮釈放を決定する。
5  更生保護施設を併設する。
問題68  医療観察制度に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1  「医療観察法」の目的は、対象者の社会復帰の促進である。
2  対象となる重大な他害行為には、恐喝が含まれる。
3  審判による処遇の決定は、精神保健指定医2名以上の診断に基づき行われる。
4  精神保健審判員には、精神保健福祉士が任用される。
5  入院処遇は、急性期、回復期の2段階に分けられる。
問題69  精神科病院に勤務するJ精神保健福祉士は、栄養士と共同の発案で、糖尿病を合併している統合失調症の患者に対する6か月間の運動・栄養指導の評価プログラムを、説明と同意の上で実施することとした。プログラムの開始前と終了時(6か月後)の2時点において、IDを付したプログラムへの参加者50名の空腹時の血糖値を測定した。参加者における2時点の血糖値の平均値に、統計的有意差があるかを検証するために、統計的手法を用いた。
次のうち、用いた統計的手法として、適切なものを1つ選びなさい。
1  相関係数の算出
2  因子分析
3  リッカート法
4  対応のあるt検定
5  カイ二乗検定

(精神保健福祉に関する制度とサービス・事例問題)

次の事例を読んで、問題70から問題72までについて答えなさい。
〔事  例〕
Kさん(50歳、女性)は80代の両親と同居していたが、母親の死をきっかけに統合失調症が悪化し、幻聴や妄想の出現により父親に対する暴言が顕著となった。Kさんの様子を心配した父親は、Kさんが通院している精神科病院に受診させた。Kさんは入院を拒んだが、父親が同意しKさんは入院した。担当のL精神保健福祉士は、Kさんの気持ちを受け止めながら、自らの役割などをKさんに丁寧に説明した。
Kさんの入院後、父親が介護保険の利用を開始するなど、生活環境は大きく変化し、またKさんの症状が残っていることから入院期間は1年となってしまった。主治医はKさんの入院継続の必要性を認め、Kさんも入院の継続に同意した。(問題70)
入院から1年半後、主治医から退院に向けた今後の治療方針の説明がなされた。L精神保健福祉士は、Kさんと父親双方の今後の生活について丁寧に話を聞いた。父親はKさんの面倒を見ることに限界を感じていた。またKさん自身は、一人暮らしを希望していた。そこでL精神保健福祉士は、退院に向けて「障害者総合支援法」に規定される地域相談支援サービスの活用を提案した。Kさん、父親も同意したことから、L精神保健福祉士はそのサービスを提供するX事業所のM精神保健福祉士と連携し、アパートの体験利用を実施した。(問題71)
退院後のアパートでの生活を継続するための話し合いをKさん、父親、L精神保健福祉士及びM精神保健福祉士とで行った。Kさんからは、定期的な巡回訪問や随時の相談を受けて欲しいとの希望が出された。そこで「障害者総合支援法」に基づく別のサービスの利用の検討を行った。(問題72)
(注)  「障害者総合支援法」とは、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

問題70  次の記述のうち、この時点でのKさんの入院形態の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  審判期日によって入院が決定される。
2  入院には家族等の同意を必要とする。
3  精神保健指定医による退院制限は72時間を限度とする。
4  都道府県知事の権限によって入院させる。
5  入院には精神保健指定医1名の診察を必要とする。
問題71  次の記述のうち、X事業所が提供する地域相談支援サービスの説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  おおむね週に1回以上の支援を行う。
2  都道府県に支給申請を行う。
3  障害支援区分の認定を必要とする。
4  支給決定の有効期間は3年である。
5  福祉事務所が作成する支援計画に基づき実施される。
問題72  次の記述のうち、このサービスに関する説明として、正しいものを1つ選びなさい。
1  標準利用期間は6か月となっている。
2  サービス等利用計画の作成を必要とする。
3  宿泊型の訓練を実施する。
4  就労定着支援との併給ができる。
5  介護給付に基づくサービスである。

精神障害者の生活支援システム

問題73  次の記述のうち、「障害者総合支援法」に基づく共同生活援助(グループホーム)として、正しいものを1つ選びなさい。
1  地域生活支援事業に位置づけられる。
2  同一の建物に居室があることが要件である。
3  体験利用ができる。
4  公営住宅は使用可能な住宅から除外される。
5  利用期間は最長で12か月である。
問題74  「障害者総合支援法」に規定される就労移行支援に関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1  対象は60歳未満の者と規定されている。
2  標準利用期間が設定されている。
3  利用者と事業者は雇用契約を結ぶ。
4  一般就労に移行した利用者も一定期間支援の対象である。
5  自立支援医療(精神通院医療)受給者証の所持を利用条件とする。
問題75  次の記述のうち、厚生労働省が発表した障害者の雇用状況等について、正しいものを1つ選びなさい。
1  「令和4年度障害者の職業紹介状況等」によれば、ハローワークを通じた身体障害者の就職件数は、ここ10年で増加している。
2  「令和4年障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業における障害者の実雇用率はここ10年の間、1%以下となっている。
3  「令和4年度障害者の職業紹介状況等」によれば、ハローワークを通じた知的障害者の就職件数は、ここ10年で減少している。
4  「令和4年障害者雇用状況の集計結果」によれば、法定雇用率の未達成企業において、障害者を1人も雇用していない企業の割合は20%程度である。
5  「令和4年度障害者の職業紹介状況等」によれば、ハローワークを通じた精神障害者の就職件数は、ここ10年で増加している。
問題76  クラブハウスモデルに関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
1  Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めるな)を合言葉とする。
2  日本においても国際基準の認証を受けた当該モデルの活動がある。
3  運営していく責任はメンバーとスタッフにあり、最終的な責任は施設長が負う。
4  迅速な求職活動を原則とする。
5  リバーマン(Liberman, R.)によって考案された。
問題77  次のうち、都道府県に策定又は設置の義務が課せられているものとして、正しいものを1つ選びなさい。
1  障害者基本計画
2  地方精神保健福祉審議会
3  自殺総合対策大綱
4  防災基本計画
5  精神医療審査会

(精神障害者の生活支援システム・事例問題)

次の事例を読んで、問題78から問題80までについて答えなさい。
〔事  例〕
Aさん(40歳、男性)は、20代後半にうつ病で通院したことがある。その後、回復してIT企業に就職し、仕事に懸命に取り組んでいた。ところが、最近、Aさんが開発したソフトウェアの不具合が複数発生したため対応に追われ、疲労困憊{ひろうこんぱい}し、食欲不振や不眠も現れ、ふさぎ込むようになった。心配した妻に連れられて、かつて通院していたY精神科病院を受診した。Aさんは、診察の際に医師に、「死にたい」と言っており、うつ病の再発と診断されたため、休職して入院した。
Y精神科病院のB精神保健福祉士が、Aさんに詳しく話を聞くと、「ここ数か月は毎日残業で、休日にも出勤していた」と話した。そこで、妻に、最近1か月の時間外労働の時間数を職場に確認してもらったところ、160時間を超えていることが分かった。B精神保健福祉士は、この状況は、ある社会保険制度の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下、認定基準)に該当するのではないかと考え、Aさんにこの制度の説明をしたところ、申請の意思が示されたため、必要書類を一緒に準備し、Z機関に提出した。(問題78)
入院中のAさんは、責任感や経済的な理由から復職を急いでおり、病状が安定しない日が続いたが、2か月後、Z機関から「認定基準」に該当すると認定された。(問題79)
その後、Aさんは1か月ほどで退院することができた。退院してから半年がたち、通院中のAさんからB精神保健福祉士は復職の相談を受けた。その中で、「復職を主治医に相談したところ、賛同してくれた。ただし、職場には時間外労働の在り方について考えてもらわなければいけないと言っていた」「今後は体調を崩さないように、今の自分に合った働き方を考えたい」などの言葉が聞かれたため、B精神保健福祉士は、U機関による精神障害者総合雇用支援の職場復帰支援の利用をAさんと一緒に検討することとなった。(問題80)

問題78  次のうち、Z機関の業務として、正しいものを1つ選びなさい。
1  労働基準法の運用に関する事務
2  障害者雇用率の未達成企業への指導
3  障害者に対する就業や生活面の一体的な相談・支援
4  失業の認定
5  公共職業訓練の紹介
問題79  次のうち、この認定によりAさんが受けたものとして、正しいものを2つ選びなさい。
1  療養補償給付
2  傷病手当金
3  障害補償年金
4  休業補償給付
5  障害補償一時金
問題80  次の記述のうち、U機関の職場復帰支援として、正しいものを1つ選びなさい。
1  休職者と離職者が支援の対象である。
2  標準的な支援実施期間は、1年間である。
3  雇用事業主への支援が行われる。
4  公務員も支援の対象となる。
5  自立支援給付の対象となる。
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